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メーカーインタビュー「道具の遺伝子」
vol.3 ブラック・アンド・デッカー

インタビュー『道具の遺伝子』では、様々な道具の背景にある、メーカーの物づくりにかける情熱や開発のお話をお届けします。第3回目は、オレンジと黒のロゴでお馴染みの、ブラックアンドデッカー。ハンディタイプの工具を初めて世に送り出し、世界で唯一、一般向け工具だけを作っている電動工具メーカーです。(文:金曜大工 2015年11月13日)

○インタビュー:金曜大工編集部
○お答えいただいた方:ブラック・アンド・デッカー プロダクト&マーケティングマネージャー 渡辺和典さん

プロ用工具を作らない。唯一の工具メーカー

プロ用工具を作らない。唯一の工具メーカー

ブラック・アンド・デッカーは、アメリカのDIY市場で6割のシェアを持つ。アメリカでは、ブラック・アンド・デッカーの製品がない家庭はないと言われるほどだ。その歴史は1916年まで遡り、これまでに数々の画期的な製品を生み出してきた。初めてハンディタイプの電動工具を作ったのも、ブラック・アンド・デッカーだ。20世紀中頃までは、工具と言えばボール盤のような据え置きの大型機械であり、同じストロークで同じ形状の物を作ることしかできなかった。それを、小型のピストル型にすることで現場での二次加工ができるようになった。ここから現在の電動工具の歴史は始まっている。1961年には、世界初のコードレスドリルを開発。71年にはNASA特注のコードレス掘削ドリルが、アポロ15号と共に月面に降り立ち、月のサンプル回収に使われている。

以上が有名な同社の歴史だが、本題はDIY専門工具メーカーとしての話に絞る。現在ブラック・アンド・デッカーは、世界の工具メーカーの中で唯一、プロ用工具を作らないメーカーだ。ほとんどのメーカーにとって、より市場の大きなプロ用工具に注力するのは当然のこと。その中で、かなり異質な存在と言えるだろう。DIY専門の工具メーカーとしての歩みはどのように始まったのか。DIY専門の電動工具というのは、他のメーカーの製品と何が違うのか。お話をうかがった。

戦後、豊かになったアメリカにとってDIYは新たなニーズだった

「世界で初めてDIY向けの工具が生み出されたのは、第二次世界大戦後のアメリカです。戦時中は、多くの工場が軍需工場のように使われていました。ブラック・アンド・デッカーも例外ではありません。しかし、戦争特需は終ります。そこで、DIYに着目したのです。日本人としては少々複雑ですが、戦勝国として富を得たアメリカでは、次は人々の生活を豊かにする番だと。新しいニーズが生まれていたのです」


Do It Yourselfの概念が始まったのは、第二次世界大戦後のヨーロッパと言われている。当初それは、空襲でボロボロになった街を、自分たちの手で修繕しようという復興運動の一つだった。しかし、大規模な本土空襲を受けなかったアメリカでは、違った広がり方をしていく。趣味、楽しみとして受け入れられていったのだ。

戦後、豊かになったアメリカにとってDIYは新たなニーズだった

「アメリカの家は日本と同じ木工ですが、湿度が低く地震が少ないので、耐用年数が高い。メンテナンスさえすれば、不動産価値が落ちないんです。むしろ、手を入れれば買った値段より高く売れる。基礎はどうなってる、誰の設計だ、ということもあまり問われない。次に買う人がいい家かどうかを判断してくれるので、DIYへのインセンティブが高いんですね。ツーバイの家は硬い木を使わないので、素人でも力が必要ないというのも大きい。DIYの土壌が整っていたのです」

DIYには、最高スペックの道具がいい道具とは限らない

多くの工具メーカーが、プロ用工具をスペックダウンすることで価格を下げ、一般向け工具として発売している。しかし、ブラック・アンド・デッカーの場合は最初から一般向け工具しか作られていない。出来上がった製品には、どのような違いがあるのだろうか。

「プロ用工具は、仕事を楽にすること、耐久性、この二つを主眼としています。しかし私たちは、DIYのことだけを考えているので、フォーカスしているところが異なるのです。プロは毎日使っても3年壊れない製品を求めます。一般の人がDIYで電動工具を使うのは年に数回。同じ製品を5年10年は使うと言っても、使用回数はプロの1/100もありません。DIY用にプロ並みの耐久性を持たせてもオーバースペックで、重く大きくなり、コストばかりかかってしまう。私たちは、一般ユーザーに最適なスペックだけに絞り込むということを徹底しています」

一例を挙げると、ブラック・アンド・デッカーの電動ドライバーには、プロ用電動工具に定番のストラップやストラップ穴が付いていない。高所で長時間作業しない一般ユーザーにとっては、不要なためだ。それがなくて300円安くなるならその方がいい。むしろ充電時には、ストラップが邪魔になるかもしれない。そういった一つ一つが精査されている。

「スペックのチェックボックスがあると、人はすべて埋めたがります。でも、私たちはそれを埋める作業をしません。ただし、他のメーカーのスペック表にはない独自のチェックボックスに印が付くことが必要です。私たちには『DIYを楽しくする』という他と異なる価値観があるからです。それこそがブラック・アンド・デッカーの存在意義なのです」

面白い!が主眼。だから誰も見たことのない道具が生まれる

面白い!が主眼。だから誰も見たことのない道具が生まれる

ブラック・アンド・デッカーは、2012年に『ジャイロスクリュードライバ』という商品を発売している。携帯電話などに使われている傾斜センサーが取り入れられており、傾けるだけで正回転と逆回転を切り替えられる電動ドライバーだ。こうした面白い商品が生まれるのも、DIYを楽しくするというコンセプトがあるからだ。
そのために、従来のマーケティング手法に頼らないというのも、ブラック・アンド・デッカーの特徴だ。一般的には、既に類似製品を使っているユーザーに、希望や不満を教えてもらい製品を改善していく。このアプローチでの製品づくりは、ユーザーの求める正解に辿り着くという目的は達せられる。しかし、それだけでは新しいアイデアは出てこないと渡辺さんは言う。

「これ欲しいですか?と聞かれたら答えられるけれど、何が欲しいですか?と聞かれても、人は答えられません。だから私たちは「これ面白いでしょう」「こんな物ありますよ」と、提案するのです。ジャイロじゃなくてもスイッチでいいじゃん、ネジが締まるなら何でもいいよ、と言われたら終わりです。でも、必要かそうでないかではなく、面白い!こんな物があるのか!という驚きが嬉しい。そこに価値を見いだし買ってくれる人が必ずいるし、遊び心がDIYの楽しさにつながっていく」

DIYに必要なのは、楽しくて簡単な道具

DIYに必要なのは、楽しくて簡単な道具

「安全性や効率だけで車を作ると、移動手段でしかない車ができるでしょう。乗って楽しい、喜びがある車を作るなら、別の視点が必要です。私たちには、ソリューションではなくエモーショナルを売っているという意識があります。道具を使った時の感情を大事にしているのです。DIYマーケットが活気づくためには、スペック以外の付加価値が必要です。楽しくて簡単、使う喜びがある、そういった機能やデザインを心がけています」

ブラック・アンド・デッカーの製品は、操作がシンプルでエントリーしやすい。最近のヒット商品では、『マルチツールEVO183』がある。ヘッド交換すれば複数の工具として使える電動工具で、ベーシックキットには、本体、3つのヘッド、サブバッテリー、11本のビットと5本のブレードが含まれる。初心者はこれ一台で木工のほとんどの作業をすることが可能だ。価格は2万1,384円。


5,000円前後が主戦場のDIY向け電動工具の中で、これは高額だ。それぞれ一番安いメーカーで3台をバラバラに揃えた方が、実は安上がりである。しかし、購入者の多くがこの商品に「安かった」という感想を持っている。収納の少ない家では、3台がコンパクトにパッケージされていることに高い付加価値があるからだ。2万円が高いか安いかではなく、この商品なら2万円でも安い、そう思えるのがブラック・アンド・デッカーの魅力なのだ。

女性のDIYニーズに、広がりがある

ブラック・アンド・デッカーの行った調査によると、日本では男女でDIYのイメージが違う。男性は、家の修繕や家具づくりなどの日曜大工をイメージするのに対し、女性は模様替えやクラフトやリメイクなどもDIYという認識だ。女性は、本来の意味での「Do It Yourself」=「自分で行うことすべて」と捉えていると言える。男性は、制作する行為そのものを趣味とするため、より腕を磨きより高度な物を作りたがる。一方女性は、快適な家にする、インテリアをオシャレにする、自分好みに変える、という結果を求めての動機が強い。DIYは目的ではなくプロセスなのだ。


「本来、DIYは暮らしのソリューションのための行為なんです。家具作りが趣味の方は、作品が増えてくると置き場所に困りますよね。人にあげて喜んでもらうのも嬉しいですが、自分で使わない家具を作るモチベーションは持続しにくい。DIYが特殊な趣味になってしまうと広がりが起きないのです。女性の行っているDIYの方が、みんながやってみたいと思えるDIYなのではないでしょうか。女性のニーズには注目して商品計画を行っています」

日本は、欧米と比べるとDIYが根付いているとは言いがたい。自分でやれば楽しい、道具を持って使う喜び、それを伝えていくのがブラック・アンド・デッカーのミッションだという。その意味で、同社が現在力を入れているのは『マルチツールEVO183』にも使われている18Vの共通バッテリーを使った一般向けアプリケーション。園芸、サイクリング、アウトドア、自動車などにも使える道具を検討しているそうだ。せっかく買った電動工具を、一年に数回DIYだけに使うのはもったいない。大容量のバッテリーを使ったツールは、災害時にも役立ちそうだ。毎日の生活の中で、常に電動工具が側にある。そんな暮らしを、ブラック・アンド・デッカーが実現するかもしれない。

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