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メーカーインタビュー「道具の遺伝子」
vol.2 和信化学工業株式会社

どんな会社にも、歴史と物語があるもの!インタビュー『道具の遺伝子』では、様々な道具の背景にある、メーカーの物づくりにかける情熱や開発のお話をお届けします。第二回目は、塗料メーカーである和信化学工業株式会社。木部用塗料に特化しており、ニスやステインでDIYERにはおなじみです。特に、水系塗料の開発に注力してきた背景について、お話をうかがいました。(文:金曜大工 2015年9月15日)

 

○インタビュー:金曜大工編集部
○お答えいただいた方:和信化学工業株式会社 主任研究員 小野田了さん

10年で激変していた、塗料の世界

ほんの10年前までは、ホームセンターなどで買えるペンキは有機溶剤系の塗料がほとんどだった。昔から塗装に親しんできた人たちにとっては、ペンキ=臭いものという認識が一般的だったのではないだろうか。しかし現在は、DIY向けのペンキはほぼ無臭の水系が主流となっている。ここ10年の間に塗料業界では、有機溶剤系から水系塗料へという大きな転換が起きていたのだ。その取り組みを早い時期から行ってきたのが、和信化学工業(株)だ。

実は、水系塗料は古くから存在はしていた。明治時代にはミルクカゼインを使った国産水系塗料も製造されている。しかし、塗膜の強度、安定性、塗りやすさなどの性能は低く、完全とは言えないものだった。そのため、有機溶剤系塗料が選ばれていき、その歴史が長く続いていた。

90年代終わり頃、転機が訪れた。シックハウス症候群、シックスクール症候群が知られるようになり、揮発性有機化合物(VOC)によるアレルギーが社会問題となったのだ。子どもへの影響が大きいことから問題は重視され、厚生省(当時)は異例のスピードで対策をとっている。97年には、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなど13種類のVOCについて室内濃度基準値を発表。建築業界、塗料業界にとって、人体への安全性確保が急務となっていった。

「その中で、和信は塗料の水系化の研究を行って環境に優しくしていこうという方向性を早くから打ち出していました。90年代には、木部用塗料水系化への道を歩み始めていましたから。業界全体にとって決定的なターニングポイントとなったのは、2003年の建築基準法の改正ですね。2005年に、石綿(アスベスト)の健康被害が報道されて、安全性を求める声はますます大きくなっていきました」

水系塗料の先駆けが完成

「塗料が乾いていく時、揮発した有機溶剤はどこに行くかというと、空気中ですよね。有機溶剤は空気より重いので、下の方に溜まる性質があります。赤ちゃんやペットのいる室内では、使えません。液体の状態でそれほどでもないと思っても、きつい匂いが広がるのは、塗り広げて乾燥する過程。例えば、長机くらいの大きさのものを塗ったら、その晩は同じ部屋で人が寝ることはできないでしょう。水系なら、揮発するのは水ですから匂いもありませんし安全性が高いのです。水系化は必須でした」

塗料は、大きく三つの物で構成されている。塗膜となる「樹脂」、色となる「顔料」、それらを混ぜ合わせたり粘性を調整するために入れられる「溶剤」だ。塗装が乾いて固まるということは、溶剤が揮発してなくなり、骨格となる樹脂と顔料だけが残るということ。有機溶剤系塗料の場合は、有害物質が空気中に放出されることになる。健康に悪影響を及ぼすばかりでなく、地球環境への悪影響にもつながる。

「溶剤系から水系に変えるのは、液体の特性が違うためにハードルが高いのです。水は表面張力が高いので水玉になりやすいですよね。それもあって木部に塗ると染み込みが悪い。でも、溶剤系はスッと入る。そこを技術でくぐり抜けるという研究を行ってきました。表面張力を小さくする工夫や、原料のレベルアップなどです」

こうした努力によって、有機溶剤系塗料と同じレベルの水系塗料が完成。1997年、和信化学工業(株)は屋内外木部用水系塗料の先駆けとして『ガードラックアクア』という商品を発売している。未だに、有機溶剤系の塗料の方が優れ、水系は塗膜が弱いというイメージがあるが、強度も塗りやすさも、有機溶剤系塗料にまったく遜色はないという。既に和信の現場施工用塗料では7割程度が水系になっており、水系に切り替えるプロも多い。

化学力で、人体への影響を限りなくゼロに

2000年初頭に大きく報道されたVOC問題は、世間の目を非常に敏感にした。VOC基準値を大幅に下回る商品が欲しい、VOCゼロの塗料が欲しいと、官公庁や現場からの注文が一気に増えたという。そういった声に応えて、和信化学工業(株)では、環境対応度を上げるための技術開発を続けてきた。その一つが、マイクロカプセルだ。

これは、塗料に添加物を入れる際に使われている技術の一つ。シリカでできた粉末で、見た目は小麦粉のようなものだ。顕微鏡で見ると粉の一つ一つには沢山の小さな穴が開いており、中空になったカプセルとなっている。ここに防カビ剤や防腐剤などの薬剤を入れて包むことで、薬が直接人に触れないようにするというものだ。薬剤がむき出しにならないので、薬剤の持続性も高まるという。

「充填されるのは、薬剤と言っても毒物や劇物ではなく安全性が確保されたものです。だから、大きなトラブルになることはまずありません。しかし、100人に1人でもアレルギーに敏感な方がいるのなら、より安全性を高めたい。そういう思いで製品開発しています。和信は、かっこよく言うと化学会社なんです。こういった素材を、自社開発できることが強みなので、技術をしっかり盛り込んだ製品を作っています。塗料メーカーだから塗料だけ作っているかというとそうではなく、色々な研究をしているんですよ」

安全性はスタンダードに。この先はプラスアルファを

水系への転換からまだ10年そこそこだが、瞬く間に水系塗料は定着していった。市場の強い要望に支えられて誕生したためだろう。しかし、有機溶剤系の塗料も姿を消したわけではない。水系塗料も有機溶剤系塗料も、性能的に違いはないと言うが、それならばあえて有機溶剤系を使うメリットがあるのだろうか。

「弊社の『ガードラック』で言うと、有機溶剤系の方が乾燥が遅く刷毛ムラが出にくく、馴染みやすいので作業性が良く感じるかもしれません。長く親しんできたプロの方が、それを好んで有機溶剤系を選んで下さっているようです。ただ、これは有機溶剤だからというわけではなく、あくまでもこの商品の場合はということです。例えば、ラッカーは目の前ですぐ乾きますよね。あれも有機溶剤系です。有機溶剤は、乾燥速度をコントロールしやすいという特徴があるんです。作り方によって変えることができるんですよ」

DIY用、屋内用であれば水系塗料が今後のスタンダードであることは間違いない。屋外であれば、有機溶剤系塗料が使われるケースもあるだろうが、用途と目的に合う塗料を選ぶことが大切だと言う。例えば、古くなった木材をリフォームするなら、荒れた下地を隠す色の濃いもの、新品の木を塗るなら下地をいかす浸透タイプや色鮮やかなもの。

「安全性への要望は、一時期加熱していましたが、ある程度落ち着いてきました。これは、高い環境対応度がスタンダードになったということだと思います。これからは、お客さんに快適さやプラスアルファを提供していきたいですね。塗りやすさや、天然オイルにこだわったもの、初めての人に塗装の楽しさを伝える商品を用意しています」

画像は、チョコレート色のガードラックアクアで美しく塗装された羽田空港の第二ターミナル展望デッキ。他にも、動物園、美術館、神社仏閣など、様々な場所にガードラックは使われている。

塗装を楽しく、簡単にするコツ

塗装は難しい。そう感じている人は少なくないだろう。しかし、ちょっとした知識や気遣いで塗装は楽しく、簡単になる。塗装道具がミソだと小野田さんは言う。まずは、塗る面積に見合った大きさの刷毛であること。当たり前のようだが、これを無視して「つい、そこにあった刷毛を使う」人が多いのだとか。

「たまたま持った刷毛が変な刷毛で、うまく塗れないからと塗装嫌いになるのはもったいないです。安い刷毛を使い捨てるのも、もちろんOKですが、そこそこの刷毛を用意すると仕上がりが全然違います。きちんと洗えば繰り返し使えるものなので、マイ刷毛を見つけてほしいです。格好から入るのも、いいと思いますよ」

写真は、小野田さんお気に入りの塗装道具。入社以来使い続けている、油彩で使われるペインティングナイフやパレットナイフでは、缶から出す際に塗料を切ったり、混ぜたりする。缶オープナーは20年以上前のもの。お気に入りの七つ道具を揃えると、塗装が楽しくなりそうだ。まずは自分好みの刷毛を見つけてみてはどうだろう。

和信化学工業株式会社 公式HPはこちらから▶

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